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サルのマネジメント

サルのマネジメント

1分間マネジャーの時間管理 (フェニックスシリーズ) ケン・ブランチャード, ウィリアム・オンケンJr, ハル・バローズ パンローリング より、マネジメントについて考える。

本書では、マネジャーが膨大な仕事に追われながらも、生産性がなかなか高まらない理由を「サル」の比喩を使い論理的に説明している。

まずは、「サル」が何なのかを定義していこう。

サルとは「次の対応」である。

本書において1分間マネジャーと呼ばれている敏腕マネジャーが新人マネジャーである主人公に「サル」を説明する場面の内容がとてもわかりやすいので、そのまま引用する。

「僕は今、社内を移動しているとしよう。途中、廊下で部下とすれ違い、話しかけられる。『おはようございます、 課長。ちょっと、いいですか。じつは現場で問題が起きまして……』問題と聞いて無視するわけにはいかないから、僕は足を止め、部下の話に耳を傾ける。だいたいの説明を聞くうちに、あくびが出てくる。僕にとって、 その程度の問題は問題のうちにも入らない。しかし時間はあっという間に過ぎていく。腕時計に目をやると、5分ぐらいかと思っていた立ち話は30分にもおよんでいた」

「先方と約束した時間はすでに過ぎている。部下の話を聞くかぎり、指示を出す必要があることは分かったが、 どう指示していいのかはまだ分からない。そこで僕は『非常にゆゆしき問題だが、今はゆっくり話している暇がない。少し考えさせてくれないか』と一応の返事をする。そして、ふたりは別れた」

〈1分問マネジャー〉は話を続けた。

「今のやりとりを離れたところから観察していれば、ふたりのあいだに何が起きたのかは一目瞭然だ。ところが、渦中の当事者はほとんど分からない。立ち話が始まるまで、サルは部下の肩に乗っていた。立ち話が始まると、 部下の案件は僕と部下の共通案件になるから、サルは僕の肩に片足を移動した。そして僕が『少し考えさせてくれないか』と言った瞬間に、サルはもう片足も僕の肩に移動させる。部下は10キロほど身軽になって、その場を去るんだ。どうしてだか分かるかい?サルが僕の肩に完全に乗り移ったからだ。「部下の言う"問題"は部下が担当するプロジェクトで発生したとしよう」「部下にはその問題に対応するだけの能力がある。その場合、サルを預かった僕は、本来なら部下がやるべき仕事をふたつ引き受けたことになる。ひとつは問題への対応、もうひとつは進涉状況の報告。つまり、こういうことだ—— 」

サルのいるところに2つの役割が生じる。世話係と監督だ。「この例だと僕か世話係で部下がその監督。部下は自分が上役であることを確認したいから僕のオフィスを1日に何度ものぞいて『こんにちは。例の件、どうなりました?』と聞くわけだ。そして満足のいく回答が得られないと早くやれとせかし始める……本来は部下の仕事なのにね」

1分間マネジャーの時間管理 -フェニックスシリーズより

「次の対応」を引き受けるということは、サルの世話係を引き受けるということである。

本書の指摘は「膨大な仕事に追われながらも、生産性がなかなか高まらないマネジャーは自分の部門全体のサルの世話係になってしまっているのではないか?」ということである。

部下の仕事を上司がやってしまうという問題は、実際にあらゆる職場で起きている。 そして上司である当人はその状況を「自分は仕事をしている」と思っているのが何よりの問題である。

逆に優秀なマネジャーは自身の持つリソースの配分が非常に上手い。

他人の「サルの世話」に限られたリソースを使うのではなく、「サルの管理」にリソースを使うのである。

この違いを言い換えるなら、

前者は「サルの世話に自分のリソースを使う」

後者は「サルの世話に他人のリソースを使う」

ということである。

その結果として起こることは、

前者は「部下が増えるほどリソースが枯渇して生産性が低下する」

後者は「部下が増えるほどリソースが増え生産性が向上する」

というサイクルである。

ちなみに「部下に仕事をやらせているが上手くいかない」という場合は、「サルの管理」ではなく「サルの放任」になっている可能性を疑うべきである。 世話係が世話係としての仕事をできるようにすることも「サルの管理」の仕事の一つである。

サルの取り扱い方

では、サルはどのように管理していけばよいのだろうか? サルの管理者の仕事を考える。

サルを特定する

サルの正体を見極めるには「次の対応」は何か?を考えることである。

上司と部下は「次の対応」を決めるまで話し合いを切り上げてはいけないとしている。「次の対応」とは、例えば「最終コストの計算」「プレゼンの準備」「案作の再検討」「企画書の提出」「契約の締結」などだ。

1分間マネジャーの時間管理 -フェニックスシリーズより

上司と部下との間でサルを特定し、「次の対応」を共通認識にすることは重要である。 このステップを蔑ろにしてしまったことにより、部下が行動を起こせなかったり、見当違いな行動を起こしてしまったということは少なくない。

「このくらいは当然わかるだろう」という思い込みは絶対に避けなければならないということだ。

サルの担当者を決める

サルが特定できたら、次はそのサルの世話係を明確にする。

可能な限り、現場に近いポジションの者(部下)がサルの世話をするのが望ましい。

その理由は3つ。

  1. 一般的に現場にいる人間の方がそのサルの特性をよく知っており、世話係として適任であるということ。これは、普段からサルの発生源の近くにいる者の方が、そのサルが生まれた背景や周りの環境をよく知っていることや、サルの体調変化に気づきやすいということである。
  2. 全体の生産性を考えたとき、中枢のリソースが枯渇し、現場のリソースが余っているような状態は非常にもったいない。これは、それぞれのポジションの影響の輪の範囲の違いである。より影響の輪が大きい者にリソースを残した方がそのリソースは有意義に使用することができる。
  3. サルの世話を通して部下自身の経験値が上がる。これは、単純にOJTにより個の能力を高めるということである。マネジャーにとっては大した経験にならない仕事でも、新人社員にとっては学ぶことが多い仕事であったりする。この経験を通して部下のリソースの総量を底上げしておくのである。

このように基本的にはサルの世話は現場で行うようにするのだが、当然ながら例外のサルもいる。 それは、上級管理職にしか担当できないサルである。

このサルの特徴としては、

  • サルの健康状態が会社の命運に直結している。
  • サルの状態を把握するのに、より高高度からの視点を必要とする。
  • サルにかかるコンプライアンス上の問題で上級管理職にしか取り扱えない。
  • サルの世話に必要なスキルが現場担当者のスキルを大幅に上回っている。

などがあり、このようなサルを正当な理由なく部下に担当させることは上司としての職務放棄といえる。

ただし、担当者が上司であったとしても全ての世話を上司自身が行わなければならないということはない。 サルを切り分けて、部下のリソースで世話できる部分は部下のリソースを使っていくのである。 この担当者≠世話係という認識の有無がマネジャーとしての生産性に少なからぬ影響を及ぼしていると感じる。

極端な例をあげると、「会社の中長期の方向性を決めるプランを策定する」というサルに関しては、経営責任者が担当者であることは明らかである。 しかし、このサルに関わる全ての仕事を担当者(経営責任者)が一人でやらなければならないということはない。 必要なデータを各部門長に出させたり、参謀に考えられる複数のプランを出させたりとサルを部分で切り分けて世話係を委任するのである。 突き詰めれば担当者(経営責任者)が世話しなければならない部分は最終決断のみである。 それでもこのサルの担当者は経営責任者であり、彼が結果に対しての全ての責任を負う。

話が大きくなったが、マネジャーに関しても同じことが言える。部下のリソースが活用できるのであれば自分が担当のサルであっても世話を任せられる部分は任せていくのである。

いつまでに何をするのか?

「次の対応」を明確にし、担当者を決めたとしてもサルのケアとしてはまだ不十分である。 サルが「いつまでにどうなっているか」を明確にしなければならない。 ここでの期限は具体的に設定する。「来週中」ではなく「○日の○時まで」といった表現である。 そして、その時点でサルがどうなっていることを望むのかも明確にする。

これで無事サルは本来いるべき場所に収まることができたわけだ。

だが、サルの特定ができて、世話係も決まったらそれで終了というわけにはいかない。

サルは生き物なので世話係を任せるにあたり健康管理などのアフターケアについての取り決めも必要なのである。

サルに保険をかける

上司と部下はすべてのサルに保険をかけるまで話し合いを切り上げてはいけない。 保険には2種類あり、サルごとにどちらの保険を適用するのかを決めていく。

事前承認

1つ目の保険は「事前承認」である。 この保険のメリットは状況が手遅れになるのを防ぐことができることである。 デメリットはマネジャーの時問と現場の裁量が犠牲になるということである。 この保険が適用される状況はサルが抱えているリスクが大きい場合や世話係が未熟な場合などである。

事後報告

2つ目の保険は「事後報告」である。 この保険のメリットは部下にとっては自由裁量が増え、マネジャーにとっては現場を監督する手間が省けるということである。 デメリットは報告を受けたときにはすでに手遅れで、致命的なダメージを受ける可能性があるということである。 この保険が適用される状況としては、サルの抱えるリスクが致命的でない場合全般といえるであろう。 生産性の面を考えると、こちらの保険を使うサルが多い方が良いのだが、常に最悪の事態はシミュレーションしておくべきである。

保険の切り替え

サルの状態は流動的であるため、途中で保険の種類を切り替えるようなケースもあるので留意しておく。

サルを特定し、担当者を決め、保険をかけるところまでが初回の面談で行う内容だ。

ここからは、初回面談後のアフターフォローに関する内容だ。

サルの健康診断を実施する

サルの健康診断は「定期健康診断」と「緊急健康診断」とで構成される。

定期健康診断

上司と部下とでサルの定期健診の日程を決め、そのスケジュールでサルの健康状態のチェックを行う。

定期健診には2つの狙いがある。

1つ目の狙いは世話係の日ごろの成果を評価することである。 2つ目の狙いは問題の早期発見で、サルが病気で手遅れになる前に手当てすることにある。

定期健診の頻度は部下の成熟度とサルの抱えるリスクのレベルによって決めていく。

緊急健康診断

緊急健康診断の実施は世話係発信のものと管理者発信のものがある。 世話係発信の緊急健康診断のルールとしては、本書でマネジャーは以下のように述べている。

サルが病気にかかったら、まずは現場ができるかぎりの手を尽くす。それでも症状が長引いたり、悪化したりして、サルが治療に反応しなくなったときは心肺停止に陥る前に、私のところに診せにくる。

1分間マネジャーの時間管理 -フェニックスシリーズより

管理者発信の緊急健康診断はマネジャーが病気のサルを発見した場合において健診を前倒しで行い、治療を始めるというものである。

このケースでは世話係は「自分でサルを治療できる」と訴えるかもしれない。しかし、サルが病気になったことは動かざる事実であり、健診の前倒しは必ず行うべきである。 健診の前倒しを伝えることで世話係は健診日までに回復のために打てるだけの手を打って今後の治療方針に関しても考えてくることだろう。それだけでも健診を行う意義がある。 緊急健康診断の結果、サルの回復のためにマネジャーの助力が必要だと判断された場合にはマネジャーのリソースは惜しまず活用する。

以上の方法を用いてマネジメントを行っていくことで、現場に自由裁量を与えながらマネジャーのリソースを確保し、組織の生産性を高めていくことができると考える。